ダメな自分ときちんと向き合えば、
新しい自分の姿が見えてくる気がします。
廣田悠介さん(20 歳)
四つ葉のクローバーは2016年から滋賀県自立支援ホームに認定され、従来の民間シェアハウスに加えて認可施設としての機能を併せ持つようになりました。しかし認可施設には、年齢制限等の制約があるのも事実。より長く安定して子どもたちの支援をするための新しい生活拠点も必要です。廣田悠介さんは、少し早いけど四つ葉を卒業してもらい、集合住宅・四つ葉サテライトハウス(みかんnaカボス)に移ってもらうことになっています。(「四つ葉通信①」より転載しました)
継母からの虐待。中学の先生が救ってくれた。
小3から中1の時まで、両親からの暴力を受けていました。僕は父の連れ子だったので、継母からも虐待されていましたね。むしろ継母からの暴力の方が中心だったかもしれません。自分の気に入らないことがあるとすぐ、手が出てくるんです。いつも殴られているので、大人が見れば虐待されているのは明らかです。でも小学生の時は学校では誰からも見て見ぬふりをされていました。
中学生になってやっと、担任の先生が僕のことを気にしてくれました。ある日、学校に継母を呼び出したときに先生の前で僕に手を上げたことが決定的な証拠となり、児童相談所に一時保護されることになったのです。そこを経て、彦根にある児童養護施設にお世話になりました。
施設に入ることで、自分ときちんと向き合えた。
児童養護施設に入ったことは、僕にとってとても良かったと思います。たしかに最初、「施設」と聞いたときは、違和感がありました。障がい者が入居しているところなのかな?とか。入ってみると、イメージはまったく違っていた。親の暴力から救ってくれた、本当に有難いところだったのです。
もちろん僕だって、最初はみんなと同じように物や人に当たりましたよ。たまっていたものを吐き出したというか。でもそのことが、とても大事だと思うんですね。施設にいる間に、どれだけ吐き出すことができるかどうか。正直言うとね、施設に入ってから僕は、一度落ちるところまで落ちてしまったんですよ。最低の人間に成り下がった。
でもそこから、一歩一歩這い上がっていけばいい。短気なところとか、すぐ手が出てしまうところとか、悪いところを一つずつ直していけばいいのだと見守ってくれる職員がいたから、今の自分があるのだと思います。施設にいる間に、心のつかえがすっかり取れて、リフレッシュできました。ダメな自分と向き合えたことは、大切な財産になりました。
親にはもう、二度と会おうとも思わない。
養護施設を18歳で退所することになったとき、家に帰るという選択肢はまったくありませんでした。帰る気なんてさらさらないし、両親にも二度と会うつもりはありません。生活には不安はありましたよ。養護施設にいる間に貯めていた児童手当や、アルバイトしたお金が約30万円。それが新しい生活をするにあたっての原資です。四つ葉の杉山理事長とは施設にいたときからの知り合いだったから、すぐここに入れましたけど、もしそうでなかったら大変だったと思います。
仕事は、施設にいる間に職員の紹介で見つけてもらいました。大手住宅設備会社で、設備の検査を行っているんです。契約社員なので給料はあまり高くないですけど、一応ボーナスも出ます。まだまだ人とのコミュニケーションが苦手な僕にとって、少人数のチームで働く今の職場はとても働きやすいところですね。
四つ葉に来た当初は、「ウン」「ハイ」「ムリ」の3ワードしかほとんど口にしない人間でしたから(笑)。それから比べたら、ずっと進歩していると思います。やっぱり他人ときちんとコミュニケーションを図れないと、社会では生きていけないと痛切に感じるのですね。
後輩たちのために少しでもチカラになりたい。
最近は、養護施設の後輩たちの前で先輩としてのアドバイスをする機会が増えてきました。そこでよく言うのは、今のうちにやるべきことをしっかりやってほしいということです。たとえ失敗してもいい。自分が思うことをきちんとしゃべり、相手と言い合いになっても納得いくまで話し込む。そんなことの繰り返しが、大切だと思うんです。
後輩たちの進路のことは、とても気になりますね。住むところがない。行く当てのない人がほとんどのはずですから。四つ葉みたいな自立援助ホームや民間のシェアハウスは、少しずつ増えてきたけどまだまだ数は足りません。一人でも多くの後輩たちが、安心して生活できる拠点を見つけられるといいのですが。
僕自身は、四つ葉が新しく始めるサテライトハウスに移ることにしました。ホントはあと一年半、ここに住むことができるのだけど、困っている後輩たちに席を譲った方が良いと思ったのです。生活は楽ではないけど、一応就職していますからね。
それにそろそろ、長いスパンで生活設計を考えた方が良いような気もしまして。少なくとも10年単位で、落ち着ける居場所がほしい。そのために、今回の引っ越しは意味があるのです。家賃はこれまでより少し高くなりますが、四つ葉のためにも僕たちができることは協力していかなくちゃいけませんしね。(聞き書き:戸原一男)