平成27年に施行された生活困窮者自立支援法によって、全国各地の社会福祉協議会で相談支援事業が実施されるようになっています。全社協地域福祉部が発行する月刊NORMAでは、全国市社協の先進事例を紹介しており、私もライターとして取材に参加。これまでいくつもの市社協を訪問してきました。
先進的な相談支援事業の特色は、「地域住民のあらゆる相談事に対応する」ということ。「困ったことがあれば、気軽に窓口に来て下さい」というスタンスを徹底しているのです。もちろんすべての問題を相談窓口だけで解決できるわけではありません。しかし聞き取った内容から問題点を整理し、専門窓口につなげていく役割を担っているわけです。
そんな中で、先日取材した鳥取県の倉吉市社協の取り組みは非常に革新的でした。ここでも平成27年度からあんしん相談支援センターを開設し、制度の狭間の問題」「緊急を要する貧困支援」等の課題に対しても相談できる体制を作っています。しかし本当にスゴイのは、ここからです。同年12月24日に、地域の企業・団体・個人が参加する「倉吉くらしの応援団」を立ち上げ、地域みんなで困っている人たちを支えようという動きになりました。メンバーには、商工会議所、JA、商店、自治公民館協議会等が名を連ねているのです。
この体制によって、食べるものがない人には、JAが新鮮な野菜や米を提供できます。子どものおむつ等の生活雑貨が買えない人には、ホームセンターが(月額3000円の範囲内で)無償提供してくれます。掃除機などの電化製品を寄付してくれる家電量販店もあれば、就職の面接用にヘアカットしてくれるカットハウスもあります。「困っている人のために、こんなサービスがあったら助かるな」という希望を実現するために、河木センター長たちが市内を駆けずり回って交渉し、協力者を増やしていったのです。
もっともユニークなのは、就職支援活動でしょう。相談者たちの生活困窮を救うためには、就職活動が大切になるわけですが、電話もない、住居もない。スーツもない状況では、第一歩を踏み出すことができないのも事実でしょう。そんな人たちに対して、既存の制度など何の役にも立たないのです。そこで倉吉くらしの応援団では、就職支援に向けて①リクルートスーツの貸出、②靴下、肌着の支給、③携帯電話の貸出、④携帯電話利用料の給付、⑤ヘアカット代の給付、⑥一時的な住居の支援(倉吉市高齢者生活福祉センターの活用)といったトータルサポートを用意しました。
ここまで微に入り細に入った支援サービスというのは、聞いたことがありません。社協を中心にして民間企業や団体がつながっていけば、これだけ有効な支援活動ができるという見事な事例でしょう。平成29年度からは、子どもたちの制服のリユースも始まっています。これは、卒業して使わなくなった中・高校生の制服、体操服、実習服などを譲ってもらい、経済的な理由でそれらを購入することが難しい人たちに届けるというサービスです。市内の学校を通じて募集したところ、メディアでも大きく取り上げられて反響を呼び、初年度で378枚もの制服等が集まり、35人の希望者に108枚が提供されています。
地域の困っている実情を把握し、地域住民・事業所等にその実情を伝えて課題を共有、連携を図ることによって解決策を探っていく。これこそがまさに社会福祉協議会の役割なのでしよう。倉吉市社協の取り組みは、そんなことを教えてくれます。