離島にもある障がい者支援施設

Kプランニング

沖縄本島から飛行機でさらに1時間ほどかかる離島である沖縄県の宮古島。人口55,000人という離島にも、障がい者支援施設は存在します。私が取材に伺ったのは、みやこ福祉会。サラダほうれん草を中心とする青菜を水耕栽培することによって、なんとA型事業所を運営しています。しかも作付け総面積は約820坪という巨大さ。沖縄県内でも他に類がないといわれる大規模ビニールハウス農園なのでした。

離島でA型事業所を運営することを決めた理由について、伊志嶺理事長は次のように語っています。 
「私たちの法人では、みやこ学園、アダナスなどの就労継続支援B型事業所を運営してきました。地元企業への就労移行にも力を入れ、ジョブコーチを育成することによって、これまでに40人の利用者たちを一般就労に結びつけてきたのです。しかし宮古島の事業所というのは、中小零細企業がほとんど。景気低迷の厳しさも加わり、これ以上利用者たちの一般就労を増やすことは実現しそうにありません。それなら自分たちで彼らが雇用者として働ける場を作り出すしかないと考え、A型事業所野菜ランドをスタートさせたのです」

沖縄県というのは、一年を通して気温が温暖な地域です。しかし夏には猛烈な暑さとなり、露地栽培で野菜を収穫することは難しくなります。そのため県内産の青菜はほとんど出回らず、本州からの空輸ものばかりになってしまいます。品不足から、価格も高騰するのが常態化していました。伊志嶺さんはここに目をつけたわけですね。たとえ夏であっても、ハウス栽培なら安定して青菜を収穫することは可能ではないかと。

当初、作付けのすべてはサラダほうれん草でした。サラダ専用に生で食べることができるように品種改良された野菜です。栄養価も高い上、ほうれん草独特のえぐみがほとんどないため、鉄分が不足がちな女性からの人気が急上昇しているのです。もっとも、宮古島内での知名度はイマイチで、ほとんとが沖縄本島に出荷していたため、輸送コストが膨大だったそう。そこで伊志嶺理事長は、島内ではあまり知られていないサラダほうれん草を広めるための一大キャンペーンを展開しました。

「最初に手がけたのが、宮古のローカルテレビでコマーシャルを流すことでした。まずはサラダほうれん草のブランドイメージを高めるための告知をしたのです。30秒ほどの短いコマーシャルで、構成を考えたのは職員たち。利用者全員をモデルにして、テレビ局の人とみんなが一体となってつくったのですよ。おかげさまで宮古島内では、とても話題になりました」

テレビコマーシャルの次に仕掛けたのは、新聞折り込みチラシ。ここにはサラダほうれん草を美味しく食べるためのレシピを紹介しました。そして最後に行ったのが、スーパー店頭での試食販売です。もちろん職員だけでなく利用者も店頭に立って、サラダほうれん草の美味しい食べ方を広めていきました。こうした商品プロモーションの効果もあって、認知度は格段にアップ。いまでは、「青菜が不足する夏期には、いくら出荷しても足りないくらい」と嬉しい悲鳴を上げるほど人気商品となっているらしいのです。

福祉施設において、ここまで本格的に商品プロモーションを実施し、しかも成功に導いた事例は全国的にも珍しいといえるでしょう。もちろん、宮古島という離島ならではのなせる技という利点はあります。テレビCMなど、都心部ではとても費用的にあり得ない選択だし、コストの安いケーブルテレビでは効果がない。地方の独占的なテレビ局だからこそ、費用の割に効果抜群の宣伝を打てたのでしょう。「知られざる企業に発展なし」というのが、企業広報の基本的考えだと言われています。たとえ地方であっても、商品を広めるための方法はある。そんなことを、みやこ福祉会の実践は証明しています。

野菜ランドの広大なハウス内風景