◎タスカルカードを導入し、職場の雰囲気が一変
ユーアイキッチンという施設では、独自に開発したシステム「タスカルカード」を導入し、利用者支援に劇的な変化をもたらしている。毎日、朝早くから大量の弁当を製造し、目が回るような忙しさなのに、「いつも笑顔があふれる楽しい職場」に変わったというのだ。私が取材でお邪魔したときにも、障害のある人たちが活き活きと働いている姿がとても印象的だった。
タスカルカードの特色は、作業工程を細分化してイラスト付きのカードにし、当日の予定を利用者自らが設定する(カードをタテ列に並べていく)ところにある。作業内容や順番はその日によってまったく異なるため、以前は1つの仕事を終えるたびに「次は、何をすればいいですか?」と何度も尋ねてくる人が多かった。余裕がある時ならともかく、バタバタしていると職員もついイライラし、「さっき、説明しましたよね?」と反応してしまう。すると利用者は気落ちして、仕事への意欲も落ちてしまう……そんな悪循環だったのだ。
タスカルカードの導入後、職場の雰囲気は明らかに改善したという。カードに従って自ら次の仕事に向かっていく彼らの姿は、自信に満ちている。職員も細かい指示をする必要がなくなったので余裕が生まれ、対応が優しくなった。「できないことを叱る」のではなく、「できたことを褒める」支援に特化するため、雰囲気が明るくなり、生産効率も大幅に向上したのである。
◎モチベーションを引き出すさまざまな工夫
このような職場改善を、積極的に導入する施設も全国には数多い。ダイレクトメールの発送代行を行うワークセンターフレンズ星崎では、「封入→封緘→宛名貼り」といった工程を分解し、複数の利用者が関われるように工夫している。これは、重度障害のある人にも作業参加を促す配慮でもある。しかしそれ以上に重要なのが、分担すると作業スピードが格段に上がることだ。下手すると1人で全工程を行う職員よりも早いこともある。利用者の特性を見極め、もっとも得意な工程に専念してもらうと、まるで職人のような能力が発揮されていく。
ビーアンビシャスという施設で取り入れているアンバサダー制度も、非常にユニークである。毎年利用者の中から立候補者を募り、当選した人が施設見学に訪れるお客さんの先導役に選ばれるのだ。ステキなグリーンジャケットを着て颯爽と施設内を案内していく利用者の顔は、きりっと引き締まっている。「あんな仕事を自分もしてみたい」──みんながそう憧れるから、毎年のアンバサダー選挙は大いに盛り上がる。激戦を勝ち抜いて当選した人は、アンバサダーとしての責任から普段の仕事においても格段の成長を遂げるそうだ。
◎自主性を育てると、作業効率が向上する
今回紹介した3つの事例は、働く人の自主性を育てることの大切さを教えてくれる。仕事の醍醐味というのは、そもそもやるべきことを自ら考える中にある。指示を待つだけでは、いつまでたってもやり甲斐など感じられるわけがない。利用者たちが活き活きと動き出せば、職場の雰囲気が明るくなり、仕事も出来るようになる──こんな正のスパイラルが生まれていくはずなのだ。もちろんこれは、障害者就労の現場に限った話ではないのだけれども……。