◎摩訶不思議な糸玉が、現代アート?
岩手県のるんびにい美術館には、優れた障害者アーティストが多数在籍している。その1人が似里力さんだ。たこ糸を一定の長さに切りそろえ、それを結び合わせることによって不思議なオブジェを生み出していく。もともと彼女は草木染めグループに属していて、染めた毛糸を玉状に巻き取る担当だった。しかし職員の目を盗んでは毛糸をハサミで切ってしまい、それを結ぶという行為を繰り返す。これでは商品にならないので何度も注意するのだが、彼女は悪戯をやめることはない。その姿がとても楽しそうなので、職員はあきらめて自由に糸結びをしてもらうことにした。
すると、まさに水を得た魚。思う存分に1本の糸を切ってはつなぐという行為を、永遠と繰り返すようになったのだ。そんな経緯で生まれたのが、「糸っ子」と呼ばれる作品である。じつに摩訶不思議な形状のオブジェなのだが、ある職員がモノは試しと岩手芸術祭美術展に応募したみたところ、現代美術部門で優秀賞を受賞するという栄冠に輝いた。まわりにはほとんど理解してもらえなかった糸くずの塊が、美術館の立派なショーケースに展示され、アート作品として専門家から高く評価されたのである。それ以後ずっと彼女はひたすらオブジェを作り続け、それが立派な仕事となっている。
◎解体マニアが、リサイクル現場で大活躍
山口県のふしの学園エコ作業所には、ネジ回し1本でどんなものでも解体できる能力を持った利用者さんがいる。椅子やテーブルはもちろんのこと、たとえ大きな機械でも彼の手にかかるとあっという間に細かな部品に早変わり。地域から回収されてきた大型ゴミを分別・分解し、専門業者へと販売するリサイクル工場で大活躍の毎日だ。
今でこそ彼は職場のエース格として信頼されているものの、この仕事に就く前は入所施設のあらゆる家電製品を分解してしまう問題児だったという。子どもの頃からこうした解体作業が大好きで、職員もその問題行動には手を焼いていた。転機となったのは、ふしの学園が新たにリサイクル事業を始めることになった時である。職場を移動してもらったところ、才能が一挙に開花したというのだ。それまでは家電を分解すると怒られてばかりいた彼だが、ここではまったく逆。「こんなにみごとに分解してくれた」と褒められ、お金までもらえるようになった。現場で彼は、誰よりもうれしそうに分解作業に勤しんでいる。
◎職員に必要なのは、「才能」を見いだす能力
こうした事例から、支援者たちは何を学ぶべきなのだろうか? それは、障害のある人たちの潜在能力を見抜く技術を磨くことの大切さだと思う。たとえ一般的には評価されない問題行動であっても、切り口を変えるとまったく違った側面が見えてくることがある。 るんびにい美術館の似里さんも、ふしの学園エコ作業所の利用者さんも、素晴らしい職員との出会いがあったから、新しい世界が開けてきた。もしかしたら、皆さんが今関わっている障害のある人たちにも、とんでもない可能性が潜んでいるのかもしれない。そんな常識の枠にとらわれない発想が、就労支援の現場では求められている。
逆に言うとこれは、恐ろしい話でもある。支援者の「人としての器」が、障害ある人の未来を大きく左右することにもなるのだから……。