仕事とは無縁だった障害者の芸術活動
今でこそ障害者の芸術作品は、アール・ブリュットとして専門家からも高い評価を受けているものの、数十年前まではそんな世界など想像もできなかった。ここに風穴を開けたのが、1986年に社会福祉法人東京コロニーが設立したアートビリティである。障害者の描いた絵画を撮影してデジタルデータでストックし、印刷メディア等に有料貸し出しするという事業だ。
現在ではすっかりお馴染みになった事業スタイルだが、当時としては障害のある人が描いた絵(正確には複製物)の利用料として、お客さんから「お金をもらう」発想は画期的だった。しかもメディア向きの絵を揃えるために、作品選考は美術専門家ではなくグラフィックデザイナーが担当した。その結果、労働組合や大手企業などが競って冊子やカレンダーなどに年間約400点以上も採用するようになったのである。
音楽や絵画活動だけの仕事場もある
アートビリティの成功は、障害のある人の芸術活動を関係者が「事業」として再認識するきっかけとなったのではないか。障害者アートの可能性を世の中に訴え続けてきたエイブルアートジャパンも、2007年からエイブルアートカンパニーを設立し、メディアへの貸出事業を始めている。その後、続々と各地で同じスタイルの活動を進める組織が生まれ、専用の撮影スタジオを備えて作品のデジタルアーカイブ構築に力を注ぐ天才アートKYOTOという団体も現れた。
音楽や絵画等の芸術活動だけを作業科目とし、高い工賃を実現している就労継続支援B型事業所(JOY倶楽部)もある。障害のある人たちがプロ顔負けの演奏隊を編成し、各地で有料コンサートを開催しているのだ。街中で行う絵画のライブパフォーマンスも人気を集め、原画やグッズ販売が好調だという。立ち上げ時には「芸術活動だけで工賃が稼げるはずがない」と反対意見も多かったらしいが、今や時代の最先端をいく施設として注目されている。
福祉を超えた本格的なアート事業の確立を
さらに今、注目すべきなのは株式会社ヘラルボニーの活動だろう。「異彩を、放て。」をミッションに若き経営者が立ち上げた福祉ユニットで、大手企業とのダイナミックなコラボ事業を次々に実現させている。軸となる活動は、知的障害のあるアーティストとライセンス契約を行い、オリジナルブランドHERALBONYとして製品を流通させていくことだ。
既存の福祉団体との決定的な違いが、製品レベルの圧倒的な高さである。たとえばネクタイなら、プリントではなく500〜600本の糸を織り込むことで原画を再現。アート性を存分に活かした仕上がりとなっている。1本35,200円という価格設定にも関わらず、高級ギフト用品として根強い人気を誇る。
障害者アートをビジネス化するという究極の形が、まさにここにあるといっていい。「芸術活動は、仕事になるか?」という問いかけは、それ自体が(なかなかそれを活用しきれない)福祉関係者を代弁しているような気もする。障害のある人たちが描く作品には、自分たちが考えている以上に可能性があるという認識を、支援者側はもっと強く持つべきなのではないか。