福祉とスポーツジム

Kプランニング

先日、名古屋で開催された障害者就労支援窓口のウェルジョブ名古屋のオープニングイベント。私(戸原)はその基調講演で全国の施設の好事例を紹介した後、施設の代表者を3名集めてシンポジウムを行いました。その最後に、障害者就労支援事業の画期的なアイデアを提案しています。それが、福祉とスポーツジムの融合。今後の福祉業界にとって、間違いなくキーワードはスポーツになると思うのです。

たとえば、老人福祉の世界。高齢化が進み、介護保険の財政は、このままでは破綻することが明らかです。だからこそ厚労省は、比較的軽い要支援1.2の対象者を介護保険から切り離し、自治体運営による総合支援事業へ切り替えました。既存のデイサービス事業者は、本当に介護が必要な人(要介護)のための専門事業所とし、要支援者のような高齢者は、地域の有志による健康づくり活動へ参加させるのが最終的な狙いです。

昨年度6月に発表された「認知症施策推進大綱」にも、同様の対策が記されていました。今や、65歳以上の高齢者の1/4が認知症、あるいは認知症予備軍という時代です。高齢化が進むと認知症になることは当たり前であり、その予防と共生を国家規模で考える必要があります。予防のために大切なのは、食事制限と健康管理。定期的な運動を40歳前後からしっかり進めていくことが大切である、と。それを推進するための場所づくりには予算を付けていくことが、国の方針として掲げられました。

福祉とスポーツの融合というテーマに、私が注目するのはこんな背景があります。私の専門は、障がい者の就労支援事業です。自ら20年障がい者施設で働いた経験を活かし、全国の施設を取材しながら「あるべき姿」を求めてきました。全国には、本当にさまざまな素晴らしい障がい者就労支援活動があるのは事実です。全国の施設の平均月額工賃が1万6千円と言われる中で、「それじゃダメだ」と必死になって、5万円以上の工賃を実現している素晴らしい事例もたくさんあります。

しかしどの施設の活動も、障がいのある人たちに不自由な身体を駆使させ、働いてもらっているのだとも言えます。本来は、それは彼らのもっとも苦手な世界でしょう。つまり、彼らに向いてない仕事を強いている。その結果、一般的にはあり得ない低工賃で働かせているわけです。でも、考えてみてください。世の中にはカラダを使わなくても、しっかり稼いでいる世界があります。いわゆるクリエイティブの世界。彼らは自身の才能と能力だけを武器にして、一般労働者以上の所得を実現しています。それが、汗ではなくて、「才能」をお金に換える世界です。

では、障がい者には才能はないのでしょうか? そんなことはまったくないはずです。障がい者アートがアールブリュットとして世界的にも注目され、その可能性が無限にあることはようやくここ数年、世間でも認知されてきました。支援する人たちの才覚によって、これからアート活動で多額の工賃を実現する施設は増えていくことでしょう。私が以前に代表を勤めていた障害者アートバンク(現アートビリティ)はその代表例ですし、福岡県のJOY倶楽部では芸術活動だけを作業としながら月額平均工賃3万円を実現しています。

そしてもう一つ、ここに新たに提案したいのが「スポーツ」を活用した新事業。といっても、あちこちの施設で実践されている療育活動としてのスポーツとか、あるいはパラリンピックのような一部アスリートたちによる障害者スポーツではありません。スポーツジムを、障がい者施設が運営することはできないか?という、いわばとんでもない発想です。

最近は、スポーツジムブームです。全国各地でスポーツジムが続々とオープンしています。ジムというとこれまでは若者を対象とした筋トレ中心のイメージでしたが、現在の流行は中高年を対象とした総合型スポーツジム。プール、スタジオ(エアロビクス、ダンス、ボクササイズ)、ヨガスタジオ等を揃えたエンターテインメント型施設なのです。何を隠そう、私自身も1年前からその魅力にはまっている一人。「このヒト、一体いつ仕事をしているの?」と不思議がられるほど、ほとんど毎日通っています(笑)。

こんなスポーツジムを、障がい者の施設が運営することはできないだろうか? というのが、私の基本的考えとなります。ご存じの通り、知的障がい者(とくにダウン症)の人たちは、ダンスの才能に恵まれています。音楽に合わせて自由に踊ることが大好きで、そのダンス能力は健常者などまったくかないません。スタジオで彼らが一斉に踊り出せば注目を浴び、スターになることは間違いないでしょう。もし障がい者の施設がスポーツジムを運営できれば、彼らは踊ることが「仕事」になるわけです。

障がいのある人たちが苦手な作業をするのではなく、天性としてもっている才能を使うだけでよしとされる世界。存在そのものが価値であり、みんなから一目置かれる世界。夢のような、まさに理想とも思える世界が、ここにはあります。地域の人たち、高齢者を有料会員として巻き込むことができれば、事業としても十分成立することは間違いありません。厚労省が推進する健康推進事業ともマッチし、障害者分野だけでなく高齢者分野の事業受託も可能になるでしょう。

はたして、この発想はまったくの誇大妄想なのでしょうか? 人材(インストラクター)さえ揃えば、すぐにでも可能だろう、と私は考えます。これまでの発想では、考えもつかなかった人材の発掘。福祉の世界など、まったく無縁だった人材の勧誘。彼らを福祉の世界に加えることで、革命的な化学反応が生じるはずなのです。考えるだけで、ワクワクしてきませんか? こう考え出すと、誰も私を止めることはできません(笑)。まずはできるところから。身近なところで実験をスタートさせたいと、真剣に考えています。関係者の皆さんに、実験の結果報告が出来る日を楽しみにしています。