先日、取材で伺った山口県のふしの学園・エコ事業所。「ごみの片付け」というユニークな作業を行うことで、工賃を大幅に増加させた施設です。15年ほど前までは、知的障害者の入所授産施設として、コンクリートブロック製造作業を中心とした授産活動を行っていました。当時の月額平均工賃は、約9,000円程度。「決して高いとは言えないが、まあそんなものだろう」と当時は考えていたと、管理者の梅田さんは語ります。
転機が訪れたのは、法人建物を建て替えることになった時でした。売り上げが頭打ちの割に、大がかりな設備を必要とするブロック事業を思い切って廃止し、新たな仕事にチャレンジすることになったのです。エコ平板(建築廃材を細かく砕いてモザイク状に並べたリサイクル製品)から草刈りまで、あらゆる仕事にチャレンジしたといいます。メイン事業をなくしてしまったため、時間はたっぷりあったのです。
そんな時、取引先の廃棄業者から「自動販売機の空き缶分別の仕事をやってくれないか?」という相談が入ったのが、現在の「ごみの片付け」事業に参入するきっかけでした。あくまで実験的な取り組みでしたが、利用者たちの作業適性が非常に高く、期待以上に活躍できることがわかり、梅田さんは指導員の野原さんと一緒に、もっとこの分野の仕事に参入できないかと調査を重ねていったのです。
「さらに私の背中を押してくれたのが、利用者本人からの申し出でした。町を走っているパッカー車(ごみ収集車)を見て、『どうせならあんな仕事をしてみたい』と訴えてきた人がいたのです。市内中を車で動いてごみを集める仕事が、彼にはとても魅力的に思えたのでしょう」と、野原さん。
そこでエコ事業所では2007年に一般廃棄物処理運搬業務の免許を取得し、ごみ収集事業へ参入する土台を築いていきました。2011年にB型事業所へ事業移行した後は、さらにその方針が加速します。より高い工賃をめざすべきためには、業者からの下請けに依存するわけにはいきません。そこで、家庭や事業所からごみを収集し、分別する。さらにそれを資源として有効活用するという現在の事業スタイルが確立されたのです。
ごみ収支事業は、契約事業所からの定期収集(事業所ごみ)とスポットの臨時収集(おもに一般家庭が対象)の2つに分かれています。とくに成長著しいのが、後者。不要品の片付け、倉庫や家財道具の整理、大型ごみの回収、空き家の片付け、故人の遺品整理など。不動産業者から、中古物件の片付けを依頼されることも多いそうです。
臨時収集の仕事依頼が増え続けた結果、エコ事業所の月額平均工賃も増加の一歩をたどっています。制度移行する前には9,000円だった数値が、2017年度は5倍の45,000円を達成。さらに2018年度は年度末賞与を支給できたこともあり、59,000円へとランクアップしたのです。これはひとえに、仕事が利用者たちに適していた結果だと野原さんは力説しています。
「就労系の施設にとって、もっとも大切なのは『利用者さんが職場の主役となっているか』です。ごみ処理の仕事は、マンパワーが活き、作業も比較的簡単。職人作業も必要なく、対象物にあまり気を使う必要もありません。何よりも、みんな生き生きと働いている。本当にいい仕事を選定できたと思います」
野原さんたちと話していて刺激的だったのは、「施設の作業の多くは、じつは職員がやりたい仕事を選んでいるのではないか?」という話です。知的障がい者の施設の多くで、パンやクッキーの製造が行われています。その理由としてよくあるのが、「美味しい匂いが充満するステキな職場を提供するのは、五感を刺激し、障がいのある人たちにとってとても大切な事だ」という療育的観点に基づくものです。
「それって、とても美しい話ですよね。一般の人にとっては感動的で、マスコミにも受ける話題です。でも、そのステキな仕事でなんぼ儲けているのか? どれだけの工賃を支給しているのか? 本当に、その仕事で、その工賃で、利用者さんは満足しているのだろうか? 今の時代は、それをもっとシビアに問い直す時期に来ていると思います」と、野原さんは厳しく語っていました。
私もまったく、同感です。ぜひ多くの施設の人たちに問いかけようではありませんか。
「今の仕事、本当に利用者たちがやりたい仕事なんですか?」
工賃向上をめざした研修会が全国で毎年のように開催されていますが、こんな本質論をバチバチと戦わせる研修会があってもいいのではないでしょうか? 「きつい、きたない、危険」いわゆる3Kの代名詞とされる職種だからこそ逆に、ビジネスチャンスがある。そんな逆転の発想で事業を成功させたふしの学園エコ事業所の取り組みは、もっと多くの人に知られるべきだと思います。