最近、何かと耳にするアンバサダーという言葉。一般的には「大使」という意味で使われ、日本では著名人や芸能人などがブランド大使として任命されるときに使われることが多いようです。わが茨城県の観光大使は、渡辺徹とか鈴木奈々だ、とかね(笑)。
広告業界でも、アンバサダーマーケティングという手法に注目が集まっています。ここで言うところのアンバサダーとは、「自社の商品・製品に対して強く愛情を持っていて、口コミなどの情報配信を自発的に行ってくれるユーザー」という定義になります。SNSの普及によって、アンバサダーの存在がこれまで以上に重要だと考えられるようになりました。
とくにネスレ日本が仕掛けた「ネスカフェアンバサダー」制度は、画期的な成功例として有名ですね。アンバサダーになると、新開発したレギュラーソリュブルコーヒー(インスタントコーヒーにあらず)を淹れるコーヒーマシンが無料提供されるというのです。これをアンバサダーがオフィスに持ち込み、(会社の経費ではなく)有志でお金を出し合って、「一杯30円」で美味しいコーヒーが飲めるようにしました。
オフィス市場をターゲットとしながらも、ネスレ日本の顧客窓口はあくまでアンバサダー個人のみ。これまでの発想だったら、アンバサダー役の人にはバックマージンが支払われたはずでしょう。しかし営業マンの役割を無料でやってくれるというのですから、企業にとってこんな有難い話はありません。ネスレ社内でも当初は懐疑的な意見が多かったと聞きますが、予想以上に多くの人たちが喜んでこの役割を引き受けました。現在ではなんと、その数は40万人。将来的には、100万人を超えるだろうと予測されています。彼らの思いはただ1つ。みんな、ネスカフェのレギュラーソリュブルコーヒーが大好きで、アンバサダーという称号に誇りをもっているのです。
福祉の世界でも、似たような形で商品の販売を行っている事例があります。たとえば、オリジナルブレンドコーヒーをつくっている一想園(茨城県)。施設のある日立市役所内10課の担当者と契約し、定期的にコーヒーを購入してもらっているとのこと。事務所ではなく、あくまで有志がお金を出し合って福祉施設のコーヒーを購入しているわけです。この方式は、面白いと思います。まとめ役に「一想園アンバサダー」という称号を与えれば、他の団体や企業にもっと積極的に広めることができるのではないでしょうか。
第3かめおか作業所(京都府)では、100円グリコをヒントにして、100円の焼き菓子(施設でつくるクッキー・パウンドケーキ・お煎餅等)が入ったカゴを市内40カ所の小中学校の職員室に配置しているそうです。こちらの代金回収は、あくまで自主申告制。たとえ売上金額があわなくても施設の責任で処理する形式ですが、相手が学校の先生だからほとんどマイナスはないとのこと。市内40カ所の小中学校というのは、市内の学校のほぼ100%に当たります。その学校内に、こうしたサービスを提供するという営業力そのものが何よりも評価されるべきですね。
「アンバサダーマーケティング ─熱きファンを戦力に変える新戦略─」(日経BP社)という本を読んだとき、これはまさに福祉業界にこそ活かせる考え方だと思いました。美味しいコーヒーを提供することで職場の仲間から「有り難う」と言われることがうれしい。それだけがネスカフェアンバサダーの特権ならば、福祉施設の美味しい商品を広める役割の人たちは、もっと高いステイタスを与えられるに違いありません。自分たちの製品を積極的に広めてくれるアンバサダー。その人たちは自分の地域ではいったい誰で、どこにいるのだろうか。これをテーマに、施設内で議論してみることをオススメします。