今、やれることから始めよう

Kプランニング

全国社会就労センター協議会(セルプ協)の課題別研修会において、「工賃向上に必要な視点」と題する1時間ほどの講義をさせていただきました。半年前に、やはりセルプ協の研修会で行った「工賃向上に必要な4つのチカラ」という講義がおかげさまでとても好評だったので、さらに大きな今回の研修会にお呼びいただいたというわけです。

今回の講義内容で気をつけたのは、先進的な事例を取り上げるときに、そのどこが優れているのかを紹介すること。売上数字や工賃の高さ、商品レベルのスゴさばかりを紹介すると、「ウチの施設とは別世界」と諦めてしまう人が施設関係者には多いからです。そのため、もっと庶民的な、ちょっと頑張れば誰でも出来る商品開発や、営業活動なども好事例として取り上げました。

「4つのチカラの重要性はよくわかる。しかし、現場の状況は…」「施設長の考えとは別に、現場は工賃向上と支援の狭間で疲弊している…」といった意見も、たくさんいただきました。私自身、約20年も障がい者就労施設で働いてきた経験がありますし、妻に至っては知的障がい者を中心とする施設の現役施設長。彼らの悩みは十分に理解しているつもりです。

しかしそういった意見に耳を傾けたとしても、仮にも「就労支援」という目的で運営される施設の全国平均月額工賃が約15,000円というのはあまりに低すぎる。私が敬愛する徳島県の眉山園の三橋施設長などは、平均月額工賃が54,000円という実績にもかかわらず、「事業基盤はまだまだ固まっていない。訓練訓練、猛訓練。月月火水木金金の精神で、仕事への情熱をもつ職員を育てたい」と熱く語っています。

「支援と工賃向上の狭間にあって疲弊している」という施設があるけれど、彼らは地域のバザーで商品をどのように売っているのでしょう? 声が枯れるくらいに大きな声を出して、ホントーに精一杯、力の限り売っていると、胸を張って言えるのか? もう一度、自分のたちの姿を思い返していただきたい。どこか照れくさそうに、遠慮がちにボッーと立っている職員たち。かれらがやっている行為は、福祉施設のイメージダウンでしかありません。

「工賃向上に必要な視点」というのは、結局のところは「今、できることを可能な限り、精一杯やる」という当たり前のところからスタートするような気がします。「売り切るまで帰って来るな」というエコーンファミリーの小池施設長も、「豆腐会員3,000人を集めなければ、クビ」と厳しいノルマを課す平成会の小野寺理事長も、求めていることは同じでしょう。

あまりに話が単純で「根性論」だと笑われそうですが、それこそが福祉施設には求められている視点ではないか。これが私の講義の結論です。「まずは自分たちの最大限をやり尽くそうよ」ということを、今後も現場の人たちに伝えていきたいと思います。マーケティングだの、ポジショニングだの、いろいろ難しい理屈を学ぶ前に、やるべきことはたくさんあるのです。