福祉施設に売上ノルマは必要か?

Kプランニング

少し刺激的なタイトルを付けました。「売上ノルマ」という言葉を聞くだけで、毛嫌いする福祉関係者が多いことは十分承知の上で書いています。しかし、最近ではようやくそれが当たり前のこととして認識され、事業運営に活かされている施設が増えてきました。いくつか事例を紹介しましょう。

前にも取り上げた岩手県の平成会「ホームラン」などは、その典型的な事例でした。豆腐の定期購読会員システムを立ち上げるに当たり、工場すら建設していない段階から「豆腐の定期会員」を3000人集めることを至上命令とされた開発準備室のメンバーたち。サンプルなしのとんでもない営業活動であったにもかかわらず、決死の覚悟で飛び込み営業した結果、本当に2500人の会員を集めてしまったというのです。

長野県のエコーン・ファミリーという施設では、パンの出張販売会におけるロス率がゼロという実績を誇っています。どうしてこんなことが可能なのでしょうか? 理由は簡単です。「売り切るまで帰って来るな」という方針が徹底されているからです。もちろん日によっては売れない販売会もあることでしょう。しかし、そこからが職員たちの腕の見せ所。帰りに地域の企業や学校をまわり、売れ残ってパンを買い取ってもらうわけです。日常の中で、地域にどれだけネットワークを広げているか。そんな活動も職員には必要だということでしよう。

徳島県の社会就労センターかもな。この施設内の廊下には、いたるところに全事業部門の売り上げ目標と達成率がグラフでわかりやすく表示されています。職員はすべて営業マンという考え方なので、営業も支援員も同等です。誰がどれくらい商品を売っているのか、一目瞭然。利用者にもすべて筒抜けなのです。グラフが伸びない職員は、利用者から『もっと頑張れ』と激励されることもしばしばとか(笑)。

福島県のポッケの森になると、もっと考え方は過激です。レストランや製菓部門の事業運営そのものを利用者主体に任せているのです。日常の細かなルールから、自分たちの給料をいくらにするのかまで、利用者たちの会議が決めていきます。おもしろいのは、年末のクリスマスケーキの販売計画を決める話です。企業とまったく同じように、参加者全員に販売ノルマが課されます。利用者たちは話し合いの末、今年のノルマを一人20個と決めたとします。その報告を施設長にしにくるのですが、その時には「私たちも頑張るので、職員さんは一人25個でお願いします!」と言ってくるとのこと!! 

福祉施設において、商品の売り上げ状況は利用者の工賃に直結します。売れなくて余ってしまったパンを見て、職員たちは悲しいと思わないのでしょうか? 自分たちの給料は施設会計の中でしっかりと保障されているのに、利用者たちの工賃は違っている。こうした現実をしっかりと直視し、就労系の職員たちはもっと事業活動に積極的に参加するべきだ。紹介した施設の責任者たちは皆、それを当たり前のことだと考えています。彼らにとって「福祉施設に売上ノルマは必要か?」という問いかけは、ほとんど意味のない愚問なのです。


(かもなに掲示された張り紙。鬼の施設長からの要求は、かくも厳しい)