平成会のスーパー営業力

Kプランニング

「高い工賃を実現している施設」の事例を教えてほしいと言われるときにいつも必ずお話しするのが、岩手県にある社会福祉法人平成会が運営するA型事業所ホームランです。ここで製造しているのは、豆腐・納豆・がんも・コンニャクなど。約4,000世帯の定期会員に対して、毎日8台のトラックで自宅まで商品を宅配するという事業スタイルを確立し、年間一億円以上の売上を確保しています。これだけでも十分スゴイ話なのですが、私が大好きなのは設立時のエピソードです。

法人で初めてのA型事業所を立ち上げるにあたり、設立準備室が作られました。集められたのは、法人内の若手先鋭たち。中には、今回のプロジェクトのために民間の営業からスカウトされてきたメンバーもいます。彼らに与えられたノルマは、「豆腐の定期会員を3,000名集めること」という非常に厳しいものでした。工場は着工したばかり。どんな味の豆腐ができるかもわからないというのに、「この人数が集まらなければ、君たちの将来はないと思え」というトップからの厳しいお達し。ブラック企業じゃあるまいし、とんでもない要求といえます。

事実、民間営業からスカウトされてきたという塚原さんは、「サンプルもなしに豆腐の定期購入会員を募る。これほど無茶な営業活動はありません。民間企業にいたときの方が、よほど楽でしたよ」と、笑いながら当時の苦労話を語ってくれました。どうやって営業活動したのでしょうか? それが気になると思います。岩手の田舎にある施設ですから、営業先は田んぼが広がる農家ばかり。農作業をしているお年寄りに声をかけては駆け寄り、

「すみませーん。今度、うちの施設で豆腐を作るんです。定期会員になってくれませんか?」
「ほうほう。どんな豆腐なんだい」
「まだサンプルも何もないんですけど、とにかく美味しい豆腐なんですよ…」
「……(絶句)

こんな漫才みたいな会話が、毎日繰り広げられていたというのです。開発室の責任者だった二階堂さんは、このように語っています。
「私たちが会員を集められなければ、この事業はスタートできません。無理なのは承知で、やるしかなかったですね。ちょうど季節も冬。吹雪の舞うなか、必死で一軒一軒飛び込み訪問していったのを覚えています。ただ不思議なことに、あまり悲壮感はありませんでした。みんな若かったから、無理な要求にもかえって『ぜったいに達成してやる!』という反骨心が芽生えたのかもしれません。もしもう一度やれと言われても、今なら不可能だと思いますけどね(笑)」

彼らの決死の営業活動の結果、ノルマには達しなかったものの2,500世帯の会員を獲得し、ホームランの事業基盤が整いました。さらにこの基盤を元にして、想いを受け継いだスタッフたちが年々事業を拡大していきます。結果として、現在では39名の利用者に対して、平均月額工賃88,000円を支給する堂々たるA型事業所へと成長を遂げたというのです。

障がい者就労系施設の関係者が集まって、工賃向上のためのセミナーなどがたびたび開催されています。商品開発や広報宣伝のあり方など、専門家による研修はとても勉強になるかもしれません。でも、実はその前にまず取り組まなくてはいけないことがあると思うのです。それは、自分たちの商品をいかに積極的に売り込むかという営業力の強化です。「やるなら徹底的にやれ」と、いつも職員たちを叱咤激励し続ける平成会の小野寺理事長の考え方は、工賃向上のための第1ステップとしてもっと多くの関係者に広まるべきだと私は思っています。

平成会のスゴイメンバーたち